インドのピラニア

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その彗星をホセ・フェルナンデスと呼ぶ

そのニュースを見たとき、その人のことを知っているあらゆる野球ファンの身が硬直した。



何度も疑った。何度も目を擦った。何度もTwitterをスワイプさせた。そして天を仰いだ。



「(通訳の)アランから連絡があって、なに言っているの? って……。最初はアランの頭がおかしくなったのかと思った」*1



当時のチームメイトとして知られるイチローは、そのニュースを聞いたとき、このような心境を吐露している。



4年前の今日、ホセ・フェルナンデスが亡くなった。
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家族とか友達とか職場の同僚とかではない、会ったこともないし、喋ったこともない。それも海を越えて離れているのに、なんでこんなに悲しいんだろう。途方に暮れるという言葉があるけども、この時は途方に暮れるの先、"途方が見えた"ような気がした。



それが事実だと分かった瞬間は忘れがたい。猿の惑星の砂漠に埋もれた自由の女神を初めて見たときのような、途方もない虚脱感に襲われた。「嘘であってくれ」ファンなら誰しもがそう思った。しかしそんな思いは天がせせら笑っているかのように空を切った。そして、すぐその選手を知ったときの思い出が頭をよぎった。



筆者が知ったのは2013年の5月頃、フェルナンデスがデビューしてから1ヶ月くらい経った頃だったと思う。MLBの公式サイトは、当時から好成績を収めた先発投手の投球ダイジェストを試合ごとにUPしていて、無料で先発投手の球筋を追いかけることが出来た。



初めて映像をみた時は、何というか「8/31の夜にまだやっていなかった宿題」を発見してしまったかのような、普通の精神状態では到底生まれないような、て言うかめでたいことなのに、変な冷や汗が自身の頬を伝ったことは明確に覚えている。



何せそのときに見た映像が、パワプロ君のように曲がるスライダーと、160kmの恐るべきストレートが若干20歳の右腕から放り込まれているのである。それも寸分の狂いも無くである。



勿論、MLBを見始めてからスゴイ球を放ってくる投手は沢山見てきた。実際メチャクチャ居た。カーショウのカーブは昔の日本の伝説的な投手がホラ混じりに語っていたコメント通りに落ちてくるし、チャップマンは170kmに迫る豪球で、明らかに速球だと読んでいる打者が面白いように空を切っていた。



でも、フェルナンデスはその投手達よりも末恐ろしく感じた。全く無名で、しかも1A+から3階級飛び級MLBの大地を踏んだという、そのエピソードだけでも末恐ろしいものだが、そんな投手が今1番恐ろしい球を放っているという事実がより野球ファンの夢を増幅させた。デビュー数試合でもうトップ投手だった。



そんな素人が見てトップなんて大それたこと言うんじゃねーぞと思う方は、この埋め込んだ映像を見るべし。本当にスライダーが直角に曲がっているんだから。




Jose Fernandez 2013 Highlights



この前年、つまり2012年こそ新人の豊作年で、トラウトとハーパーがこの年にデビューして「こんなシーズン2度とないんじゃないか」と余韻に浸っていた矢先のフェルナンデスなので、これこそがMLBなのだと突き付けられた。天才が毎年出てくるのが通常運転という世界。



2位のハービーも160kmが自由自在な、負けず劣らずの剛球の持ち主だというのに、新人王投票では影すら踏ませない独走だった。それから7年後の現在では、すっかり落ちぶれてしまい、毎年NPBなりKOBに行くのではないか?という飛ばし記事が後を絶たない。世界一のリーグとはそういう世界。



でも、フェルナンデスに限ってそんなことにならないと思っていたし、実際ワースポMLBに出演した上原は「これは物凄い投手になりますよ!」と食い気味に紹介したのは、今でも記憶に新しい。どこまでこの選手は高みに登っていくのだろうと思っていた。



そして、その姿を外野から見守っていたイチローはこう言う。


「雰囲気あるじゃないですか。振る舞いも含めて。自信に溢れている感じがする。明らかに(他の選手とは)違うでしょう。あるじゃないですか、スターの雰囲気を持っている人って。そういうのをこの人は持っていますね。後ろで守っていて頼もしい感じがする*2


高みには行った。
誰よりも高いところへ行った。
誰も見ることが出来ない高みに行ってしまった。



4年前の今日、SNSで流れた信じられないニュース。フェルナンデスがボート事故で亡くなったという話は、地球を横切る彗星の如く、瞬く間にアメリカ全土を駆け巡っていた。
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日本の選手で例えるなら、全盛期の松坂であり、ダルビッシュが亡くなったと思って差し支えない。そんな選手が、乗り上げられたボートと共に遺体として見つかった衝撃は、少し想像したらそのインパクトが分かるだろう。当時付き合っていたガールフレンドは、そのお腹に大切な命を授かっていたというのに。



MLBでは、海外出身選手の母国の治安が悪すぎて、強盗なり交通事故に巻き込まれて天逝する選手が、日本と違い意外にも多い。同じ時期に、ヨーダノ・ベンチェラ*3やオスカー・タベラス*4などが、早すぎる死を遂げていた。他にもボートのプロペラに巻き込まれたとか、コカイン中毒とか、馴染みがない死に様ばっっっかりである。



しかしフェルナンデスの場合は、そんな「死」というイメージが全くもって無かった。試合に全力で向かっていたのは画面越しから伝わっていたし、目が死んでるような様子もなく、精神的な疾患がニュースになることも無かった。



これが、ホセ・カンセコ*5やらレニー・ダイクストラ*6のように、私生活がハチャメチャを優に越えている方々だったら、そんなに驚くニュースでもない。そもそも高齢の二方と違い、フェルナンデスはまだ若干の24歳なのだ。



そんな無邪気で純真無垢な選手が、深夜にボートに乗っかり、追突死する位の猛スピードで走り回る。そんな拭いがたい事実と、実際もうこの世には居ないということ。事件をひもといてみれば、そんな二重の悲しみだった。おまけに、遺体からコカインの反応も見られた。



何に苦しんでいたのか?何故薬物なんかに手を出すのか???その理由が全く分からなかったし、分かりたくもなかった。そんな事実知りたくもなかった。15歳の時に4度目の挑戦でキューバから亡命を果たし、海に放り出された母親を、自ら海に投げ打って救出したフェルナンデスが、何故ボートで死ななくてはいけなかったのか。そんなの考えたくもない。



考えたくもない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



共有できる人が余りにも少ないのも辛かった。何故なら、知人はMLBに関心を持つ人が少なかったし、ホセ・フェルナンデスなら、同姓同名の選手が楽天に居たのだ。「あの楽天の!?」と言われる度に、どう表現したら良いか分からない、漠然とした寂寥感が俺の心を覆った。別に楽天のフェルナンデスだって有名だし、別に気にしなきゃいいって話なだけだが・・・。




フェルナンデスの死が報道された直後のマーリンズの試合、1番打者のゴードンは、この年の初本塁打を先頭打者HRで飾った。グラウンドを回るゴードンが流した涙は、これ以上無くきれいで、そして悲しかった。




NYM@MIA: Gordon leads the game off with a solo homer



数年後、ブリュワーズにトレードで移籍し、MVPにも輝いた経歴を持つ同僚、イエリッチはこの事故について、このように語っている。


「トレードされた選手やまだチーム(マーリンズ)に残っている選手たちと話してきたけど、ホセの身に起きてしまった悲劇以来、すべてが変わってしまったというのがクラブハウスでの総意なんだ。



勝つチャンスはホセと共にあったんだってことを、みんなわかっていたと思うよ。先発ナンバーワンの、正真正銘のエースがいるんだから、可能性はあったと思うんだ。起きてしまったことは、誰のせいでもないんだよ」*7

この事故以降、マーリンズの士気は明らかに低下し、”恒例”のファイアーセールを敢行。クリーンアップ全員と正捕手を他球団へトレードした。マーリンズに当時の面影は完全になくなり、今は多少持ち直したものの、その当時のチームはすぐに100敗するチームに逆戻りしてしまった。



そして、イチローも例外ではなかった。富・名声・力 かつてMLBで全てを手に入れ、残すところワールドチャンピオンだけとなった「MLBゴールド・ロジャー」こと、イチローが唯一残した秘宝。イチローはそれを掴むこと無く、マリナーズ移籍後にキャリアを終えることとなる。


きっと僕がいつもやっていることを変えてほしくないと思った。だからいつものように準備した。16番のユニホームに袖を通した時、普段の気持ちとは違いましたけど、普通通りにやることが、彼が望むことだと信じていた。(7回に左前打を放ち)この1本は彼にあげます。」*8

あれから4年が経過した。ただえさえ当時でもあまり騒がれなかった報道が、もう1記事見つけるのもやっとな位に少なくなってしまった。アメリカだって、もうそんなに騒がなくなってしまった。



だから、俺は毎年この時期に人知れず思い出すことにしている。かつてそんな投手が居たことを忘れないように。一瞬で頂天に立ち、彗星の如く散っていったその選手を忘れないように。



彗星のように野球人生を謳歌し、夜空に散った伝説の男。その名をホセ・フェルナンデスという。













<これも是非>
mochan9393.hatenablog.jp



mochan9393.hatenablog.jp











シーユーアゲイン なにもあげん

*1:この記事からの引用です https://number.bunshun.jp/articles/-/826657

*2:この記事からの引用です https://number.bunshun.jp/articles/-/826657

*3:フェルナンデスと同様に将来を嘱望された豪腕。先発でありながら最速163kmを計測。しかし、2017年母国での交通事故により25歳で死去

*4:同じく将来を嘱望された天才打者。ベンチェラ同様22歳で交通事故により命を落とす

*5:マグワイアと共に、80年代のMLBを支えたHRバッター。ステロイドやら指が取れたやらで騒がしいったらありゃしない ホセ・カンセコ - Wikipedia

*6:首位打者経験もあるかつての好打者。窃盗・詐欺・セクハラでしょっちゅうお縄に捕まっている レニー・ダイクストラ - Wikipedia

*7:この記事からの引用です 移籍のイエリッチ、エースの急逝で「全てが変わった」「誰のせいでもない」 | Full-Count - (2)

*8:この記事からの引用ですイチロー「この1本は彼にあげます」天国のエースにささげた一打― スポニチ Sponichi Annex 野球