インドのピラニア

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10年前の「選ばれし者」 マット・ウィータースの今

    -チームメイトからのあだ名は「神」-



男は、かつてそのように呼ばれていた。かつて同じ職場・・・というかフィールドで働いていた同僚は「もう『すげぇ』しかなかったよ。マジで打つし、マジでスゴイ選手さ」と舌を巻いたらしい。



統計学者のネイト・シルバーという学者は、PECOTAという成績予測プログラムを作成し、大統領選挙で50州中49州の開票結果を正確に当てたらしい。そのPECOTAがその選手を査定した結果は、「殿堂入り間違いなし」とはじき出したそうだ。



捕手でかつスイッチヒッターという、稀代な万能さを併せ持つ彼を、マイナー時代から数多くのスカウトがその選手を観てきた。そのスカウト達は一様にその運動神経・野球センスに脱帽した。

アベレージ:「毎年のように3割は打つだろう」
長打力:「左右どちらも打てる。30HRはたやすい」
肩「その気になればクローザーも出来る」
守備「これから徐々に上達し、平均以上を見込める」
スピード「完璧な選手なんてそうはいない(笑)」



これは今から10年前、つまり2009年に発売されたMLB雑誌「スラッガー」の、とある選手の特集記事を抜粋したものである。表紙にでかでかと「未来のスーパースターがここにいる」と銘打って、気持ちよいフォロースルーをしている彼の写真が共に写っている。



アメリカでは、このようなスター選手が出ると度々「The chosen one」(選ばれし者)と紹介される事がある。その最たる例が、フィリーズブライス・ハーパーだろう。野球界のレブロンジェームスと言われている男である。そのようなあだ名が付けられて然るべきだ。だから、10年前の「選ばれし者」と言えば、真っ先に彼の名前が挙げられるだろう。



ただ、俺がMLBを見始めたとき、つまり2012年頃なのだが、彼は言うほどスゴイ選手とは思えなかった。確かにチームにとっては不可欠だし、その2012年はゴールドグラブ賞も獲っていた。しかし、ツインズには盛りは過ぎたものの、マスクを被りながら高水準の打撃を披露したマウアーが居たし、ナ・リーグではジャイアンツのポージーが捕手でありながら首位打者を獲っていた。



それに比べたら、彼の.249・23HRという成績はいささか見劣りがするものだったし、この翌年辺りから、ア・リーグにロイヤルズのペレスが打撃力・キャノンアーム・存在感で一気にリーグの顔となり、そこから、ヤンキースのサンチェスなり、カブスのコントレアスなり、フィリーズのJ・Tリアルミュートなりがめきめきと台頭して、その選手がポッと思い浮かぶことも少なくなった。



マット・ウィータース 33歳



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彼は、おそらく人生の岐路に立っている。去年のナショナルズでの成績が悪すぎて、今季はぎりぎりカージナルスマイナー契約として拾ってくれた。勿論スタメンではない。カージナルスには、それこそ殿堂入りも見えてきた不世出の捕手、ヤディアー・モリーナがホームベースをがっちり守っているからだ。


しかし、モリーナは4巡目指名で、1巡目のウィータースとは入団時の評価がかなりかけ離れていたし、ウィータースの契約金は600万ドル(約6億6000万円)という超高評価だった。



かつて神と言われた男が、今やバックアップ



一体、何がここまで明暗を分けたというのだろう。いや、そりゃもうウィータースも、その他の1巡目に比べたら出来は良い。同じ一巡目には、去年ロッテで3塁を守らせて貰えなくて泣いたマット・ドミンゲス 捕手では、2013年伝説の打撃成績、打率.194出塁率.227を記録したJ・P・アレンシビアなども居た。



アレンシビアに比べたら、ウィータースは本当に良い捕手である。決して「育成失敗」かと言うと、それはお門違いである。しかし、この年の全体1位、レッドソックスの顔の1人デビット・プライス並みの存在感を出して欲しいのもまた事実である。



そんなアレンシビアが、2013年のWBCアメリカ代表の正捕手だった~という話はいつかするとして、ウィータースは10年前とは比べものにならない待遇差で、MLBにしがみつかなければならない状況である。



一体この10年間で何があったのだろうか?



まず、ウィータースは「捕手にしてはけっこう打てる」選手ではあったが、「捕手だとしても塁に出られていない」選手でもあった。現在の通算出塁率は.315 MLBの平均出塁率.320近辺な為、ウィータースは平均よりやや下である。特に、2017年シーズンは出塁率が.288と3割を切っており、スタメンとして試合に出るにはかなり危険水準。まぁアレンシビアよりは良い。アレンシビアは.227なのだから。



そして、ウィータースの凋落の最も大きな原因の一つに、フレーミング能力の欠如が挙げられる。フレーミングとは、きわどいコースに来た球をストライクゾーンに入っているように捕る技術のことで、ここ最近のMLBにおいて一気に注目されるようになった。


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2014年のパイレーツの躍進が注目されるきっかけで、当時の正捕手マーティンが、一見すると打撃成績が悪く他の球団から目に目に付けられなかった所を、パイレーツがフレーミングの技術に目をつけて好待遇で契約。パイレーツがポストシーズンに進出する原動力ともなった。しかも、出塁率は.400を超えていて、ウィータースと比べると8%ほど塁に出られるので、オフは更なる好待遇でブルージェイズに引き抜かれた。



ウィータースはこのフレーミングが大の苦手だった。いや、正確に言うと「かつては上手かった」と表現するべきだ。



アメリカの指標文化というのは本当に優れていて、今やフレーミングの優劣も数値化しているのだが、0が平均のこの指標において、2011年の数値が9.8に対し、2017年のフレーミングの数値が-11.1と猛烈に悪くなっている。



どれ程悪いかというと、こんな動画が出来る位フレーミングが良くない。
www.youtube.com



事実、この動画の元となったナショナルズ時代のウィータースは、ポストシーズンになると、毎回その拙いフレーミングできわどいコースの殆どがボールになり、ファンのフラストレーションを煽っていた。



打撃は言うほど良くない。そして、きわどいコースはボールになる。年ももう若くない。→メジャー契約は得られない こういう図式である。



ウィータース不振の原因は他もある。言わば「あるある」なのだが、ウィータースは怪我が多かった。2014年に捕手でありながらトミージョン手術、去年は膝の手術と体は常にメスだらけで、特にずっと座り続けの捕手で膝のメスを入れて良いわけが無い。しかも、トミージョン手術をしたという事は、1年近く休養期間があったという事でもある。にも関わらず膝をメスを入れているのは、本当に状態が良くない。

jp.reuters.com

この記事によると、ハムストリングにメスを入れる状態というのは、アスリートにおいてほとんどないらしい。確かに肘・膝・肩に入れるのが野球界のよくある手術ケースだから、太ももにメスを入れた選手はあまり聞き覚えが無い。



そういえば、Twitterをさかのぼってみるとこんなツイートがあった





・・・ ・・・ ・・・



これじゃないか・・・????????



おそらくウィータースのフレーミング技術の低下はここにあると訴えたい。「足の状態不良から来る、キャッチング姿勢の悪化」にあると。昔は足も良くてフレーミングに生かせていたのが、足が悪くなるにつれて、フレーミングに向かないキャッチング姿勢になってしまい、急激に下手になってしまったと。



そんな状態なら、足が悪いからと言い訳の一つもしたいものだが、それがファンや記者に届くことはないだろう。あれから10年経った今、英語記事ですらウィータースの一挙手一投足を伝えている媒体はない。ましてや日本のファンというニッチなカテゴリーには・・・である。



「これから上手くなるだろう」とスカウトから守備について言われていた男が、「上手かった」時代を通り過ぎ、今や「下手すぎてバックアップなら何とか」という所まで来た2019年。ウィータースも30台半ば、恐れも知らない神だった男が、今や酸いも甘いも知る崖の端でもがく雑草となっている。



確かにMLBはとんでもなく華やかだ。昨日のドジャースの試合では、毎年40億円はもらおうかというドジャースの大エース、クレイトン・カーショウが、美人の奥さんと娘2人をマウンドに立たせて始球式させていた。しかし、いつまでそんな汚れ無き生活が続くというんだ?一瞬だろう??そんなのは気まぐれな神が微笑んだまやかしじゃないか。それは10年前の神が証明してしまっただろう???おそらく、その事はカーショウが最も身をもって知っている。



今、母国に帰れば国を挙げて歓迎されているプレーヤーの影で、かつての天才がなりふり構わず、プライドを棄て泥臭くこの大舞台にしがみついているのもまたMLBなのだ。






さて、俺ももういっちょ頑張ってみよう。神だってくらいついているのだから。





<これも是非>
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シーユーアゲイン なにもあげん