インドのピラニア

野球・相撲 時々その他 自由きままに書く インドのピラニアのように

キングは死なず ただ帰還するのみ

俺は、松井秀喜が好きだ。

 
 
そりゃそうだ。まぁパワーが売りの海の向こう、俗にいうベースボールで、スピードやディフェンスではなくパワーでバチコン勝負するのだから。こんな正攻法な戦いをされたらそれはまぁ日本でも国民栄誉賞でも獲れるわけである。
 
 
 
しかし手首の骨折以降、松井の持ち味の1つであった確実性に衰えの兆しが見え、4打数0安打ないし5打数0安打の試合が徐々に増えてきた。本塁打を重ねられるのは松井の長所でもあり、当時の日本球界においては壮大なロマンでもあった。自分はどの投手から松井はHRを打てるのかと、当時出始めたボタンでパカっと開くガラケーで予想するのを日課としていた。ついでに言うと、イチローの予想は全くしていなかった。そんなことしなくても勝手に打つからである。恐るべき信頼感。打つことが当たり前という歪みきった常識に、当時は何ら疑問を抱いていなかった。
 
 
 
そんなイチローと松井が相まみえる マリナーズヤンキースのカードは、アメリカの反対な極東で屈指の黄金カードとして、NHKBSのバカでかい「料金払い込みに関するお願い」のテロップが遮るTV画面で繰り広げられていた。もちろん全く払わなかった。みんなそうだろう?????
 
 
 
さて、前述した「打てるかガラケーで予想する」件についてだが、圧倒的に松井が何も出来なかった投手が(かなり主観的ではあるが)2人居た。1人が「練習できない球を打てる訳が無い」と舌を巻いたレッドソックスナックルボーラーウェイクフィールド。れっきとした200勝投手だ。そしてもう1人がマリナーズのキングことフェリックス・ヘルナンデスである。
 

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「キング」
 
 
 
自分がMLBを観る前ずっと前からそう言われていたらしい。「イチローの後を継ぐマリナーズの顔」だとも当時は知らなかった。若い。20幾らの若手ではないか。日本だと大学生くらいの年齢だ。まさか、そんな若手を駆り出さなきゃいけない程、マリナーズは弱いのか?いや、いくらスポーツニュースの速報でも察することが出来る弱さと言っても・・・。何故松井が打てないのか。松井の衰えは思った以上に早く来ているのか・・・?
 
 
 
俺が「キング」を本当の意味で知ったのは、松井が引退宣言した位の頃である。
 
 
 
面を喰らうというのは、こういう事を言うんだなと思った。150kmオーバーの快速球が寸分の狂いもなくミットに収まる。しかもそれがクネクネとアウトロー・インローにフロントないしバックドアでギリギリに収まる。打たせて良し・抑えて良し。周りのマリナーズファンは、応援が珍しいと言われる海の向こうの野球で、キングの奪三振を「K」のボードを持ちながら狂喜乱舞している。いつでも三振に切って取れる変幻自在な投手。これこそコンプリートプレーヤー。プロ野球の常識色濃く残る俺の脳裏にインパクトを残すに十分過ぎる投手だった。
 
 
 
 
 
 
「世界は広い。松井が空を切りまくる訳だ。こんな投手が居るのか」と、借り上げたアパートの一室で、まさに茫然自失と言わんばかり天を見上げる俺は碇シンジ。そんなスーモを尻目に解説者がボソっととんでもないことをつぶやいた。
「これでも大分遅くなりましたよね」
 
 
 
マジかよ。うっっっそでしょ。いやいやいや。確かにコーナーにバシバシ決めているのを見たら「king」というより「machine」じゃねぇか、なんてうっすら思っとったけども(ここでyoutubeスマホで開き数年前の動画を見る)
 
 
 
うわ~~~~~~キングだわ~~~~~
そこには今よりもっと前に100マイル(160km)に迫ろうかという勢いで、「これが若さか・・・」と殴られたシャア。いやクアトロ・バジーナはそう言うだろう。きっぷのいい、力任せに投げているキングが居た。力自慢の地元のツレが、腕の力で第1ピンなんか考えずに投げ込まれるボウリングみたいな、傲慢な躍動感がそこに映っていた。データを見ても数年前より2・3マイル落ちているらしい。
 
 
 
でも、最も腰を抜かした場面はここでは無かった。この後投げられた変化球こそ本命であった。左打者のアウトローにするりと逃げていく89マイルのチェンジアップ。これだ。これなんだよ。これが「キング」が世界最高峰のマウンドで「king」として君臨できる最強の武器なのだ。
 
 
 
腰抜かすのも無理は無い。このチェンジアップは143km(89マイル)も出ているのだ。チェンジアップはタイミングを外す代表的な変化球だ。130kmも出たらかなり速い。杉内だって120km半ばが当たり前、そんな球種だろう???そんなタイミングをずらす気など微塵もないチェンジアップがあっていいのか?????
 
 
 
まさに居る所が全く違う投手だった。他の投手は85マイル近辺(137kmくらい)で、これでもめちゃくちゃはえーなと感心しきりだったのに、そこから約7kmも速い高速チェンジアップを操れたのは、当時はキングただ1人だった。野球の常識が一気にすげ変わった瞬間だった。
 
 
 
それから月日は経ち、エヴァンゲリオンの設定も、バックトゥザフューチャー2の舞台もカブスの世界一も過ぎ去り、AKIRAのヌルヌルした映画渦巻く、そんな近未来がちらつく2019年
 
 
 
あれから幾年月が過ぎた。140km台のチェンジアップは他の投手もバシバシ扱える量産品と化した。
「もう時代は150km(93マイル)のスライダーだよ」と髪を切ってサッパリしたメッツのデグロム。
「いや、時代は104km(65マイル)のカーブだろ」とグレインキーの投球術はますますキレ味を帯びていく
「おいおい、結局は高めの155km(97マイル)のまっすぐでなぎ倒すに限る」と引退の縁から復活したバーランダーの鼻息は荒い。
 
 
 
そんなライバル達の横で、男は新たなる旅立ちを決意しようとしている。消化試合で盛り上がりに欠けた内野席全体を埋める黄色い「K」の文字。それを一心に背で受ける背番号34 フェリックス・ヘルナンデス。マリナーズ最後の登板が始まった。
 

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ここまで慕われるのはかなり珍しい・・・

 
 
もう、ストレートなんか90マイル(145km)がせいぜい。全盛期のチェンジアップが今のストレートになっていた。もうキングが制御できる球速の臨界点を超えていた。欠点が何一つも無かった正攻法なピッチングも、時が経つにつれてカーブで目線をずらさずを得なくなり、そのカーブすら打たれていた。まだ33歳。3歳年上のバーランダーは今が全盛期というのに、ドジャースのリッチ・ヒルに至っては、独立リーグで四苦八苦して、MLBなんて遠すぎて見えないというのに何と残酷な構図だ。
 
 
 
マリナーズファン曰く、キングは慢性的な足の痛みを抱えていたらしい。2016年、チームがプレーオフまで肉薄していた時に無理を押して投げ続けた代償だという説もある。今季は右肩の痛みで長期離脱をしていた。今季1勝8敗防御率6.50 あらゆる面で限界が来ているようだった。
 
 
 
ヘルナンデスは、どんな時でも悪く言わない選手だった。今季も早くから優勝争いから脱落して、一塁しか守ったことがないエンカーナシオンが人生初2塁手としてプレーしてたりしても、ヘルナンデスは「このチームを信じている~」とか「ベストを尽くせば結果は出る~」的な事を言い続けていた。肩を怪我しても「大した問題じゃない」の一点張りだった。実際は長期離脱しているのに。俺はそれを聞き、「んなわけないだろ」とちょっと笑ったりしていた。
 
 
 
でも、人気の源はそこなのかもしれない。15年間居るアメリカでは珍しいフランチャイズプレーヤーも、キングの為に黄色い服を着て全員一丸となって、チームではなくその選手に対して応援するのはヘルナンデスしかいない。ヤンキースのジャッジだって、ヘルナンデスのような存在感を出しているのに、与えられたのは、右中間近くにある専用シート30席ないし40席だけである。あれだけのムーブメントが起こるのは本当に稀なのだ。

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(左奥の席入りづらそう・・・)
 
 
ヘルナンデスは、「まだ」というより「もちろん」現役続行の意思を既に表明している。33歳まだ老け込む年ではない。「キングは死なず ただ去るのみ」 なんてマッカーサーのような言葉は似合わない。野球スキルという面では何年も前から世界最高レベルなのだ。彼の復活した姿はマリナーズファンだけの話ではない。日本の数少ないMLBファン、全世界の野球ファンの願いでもあるのだ。
 
 
 
ファンがやるべき事はただ1つ、来年のヘルナンデスがどのチームで投げようと、そのスタジアムで「K」のボードを取り出して、「キング」の投球を見守るそれだけなのだ。
 
 
 
 
 
 
シーユーアゲイン なにもあげん